海外在留邦人と相続税
--海外にいる相続人が財産を相続する場合--

この記事は、日本国外に居住している方を対象に、相続税の課税について解説しています。具体的には、海外に居住している方の親族が日本で亡くなり、相続が発生した状況を想定して記述しています。
海外に居住されている方は、次のような疑問をお持ちの方も多いと思います。

  1. 自分は遺産を相続する権利があるのだろうか。
  2. 相続税は課されるのか。
  3. 相続税の申告の手続きはどのように行えばよいのか。

順番にみていきます。

1 相続人の範囲

亡くなられた方が日本人の場合、日本の法律(民法)にしたがって遺産を相続する人(相続人)が決まります。相続人を定める大切なポイントは遺言書の有無です。

遺言書がある場合

民法では、遺言書がある場合には、亡くなった方の遺言によって相続人が決まります。ですから、あなたが遺言書による相続人の中に入っていたとしたら、遺言書に書かれているとおりに、遺産を相続します。もし、遺言書による相続人の中にあなたが入っていなかったとしても、あなたが、次に説明する「法定相続人」(民法が定めた相続人)である場合には、「遺留分」と呼ばれる最低限の取り分が留保されており、遺産の一部を引き継ぐことができます。

遺言書がない場合

遺言書がない場合、民法の規定により相続人になる人の範囲が決められます。このとき決められた相続人を法定相続人と呼びます。法定相続人となれる人は、配偶者(法律上の夫または妻)、子、父母、兄弟姉妹です。このため、遺言書がない場合、
内縁の妻や夫、親族であっても叔父・叔母などは遺産を受け継ぐことはできません。

あなたの居住地や国籍は、相続人の判定には影響しません。つまり、海外で居住している方や、国際結婚などにより日本国籍を喪失し外国籍を取得している方も日本国内在住で日本国籍をもつ方と同じように扱われます。

まとめ

遺言書がある場合は、遺言書のとおりに相続人が決まる。
遺言書がない場合は、法定相続人が相続人となる。
居住している場所や国籍は、相続人の判定には、まったく関係しない。

2 日本の相続税の課税対象

あなたが相続人として遺産を相続するとします。あなたに日本の相続税が課されるかどうかは、どのように決まるのでしょうか。海外にいる相続人が遺産を相続する場合の相続税の課税について、国税庁は以下のように定めています。

「相続などで財産を取得した時に外国に居住していて日本に住所がない人は、取得した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の課税対象になります。」
「相続人が外国に居住しているとき」

これは、例えば、海外に居住しているしているあなた(日本に住所がない)が、亡くなった方が所有していたイギリスの不動産(遺産の所在地が日本国外)を相続した場合には、相続税は課税しません、ということをいっています。
相続人が日本に居住している場合には、相続した国内外すべての遺産に課税するが、海外に居住しているときには、日本国内にある遺産だけが課税対象になる。これが原則です。
ですが、この考え方だと、財産を日本から海外に移し、それを国外に居住する方に相続させれば、日本の相続税の課税を逃れることができます。このような課税逃れを防止するため、上記の原則に加えて次のようなル-ルが定められています。
「ただし、次のいずれかに該当する人が財産を取得した場合には、日本国外にある財産についても相続税の対象になります。」

  1. 財産を取得したときに日本国籍を有している人で、被相続人の死亡した日前10年以内に日本国内に住所を有したことがある場合か、同期間内に住所を有したことがなく被相続人が外国人被相続人又は非居住被相続人でない場合。
  2. 財産を取得したときに日本国籍を有していない人で、被相続人が外国人被相続人、非居住被相続人又は非居住外国人でない場合。

このル-ルは非常に複雑ですが、今回前提としている、日本人の親族が日本で亡くなった場合には、
相続人の居住している場所や国籍に関わらず、相続したすべての遺産に課税する
という結論になります。くわしくお知りになりたい方は、上記の国税庁のウェブサイトをご確認ください。

まとめ

亡くなった方が日本に居住していた日本人である場合には、海外に居住する相続人も、日本国内に居住する相続人と同様に、すべての遺産に相続税が課税される。

3 相続税の申告の手続き

相続税申告の流れにそって、気をつけるべきポイントを確認していきます。

① 相続人の確認

相続をする相続人の確定のために戸籍の調査を行います。このときあなたが日本国籍を喪失している場合には、どのように行えばよいのでしょうか。日本では二重国籍が認められていないため、相続人が居住している国に帰化し、外国籍を取得している場合は日本国籍を失います。このとき、日本の戸籍からは除籍されますが、なくなった方の戸籍謄本や除籍謄本などを参照すれば、相続関係を確認することができます。

② 相続財産の把握

相続税を支払うかどうか、またその税額については、相続財産の額によって異なります。財産には現預金、不動産などのプラスの遺産だけでなく、借金などの負の遺産も含まれます。

③ 相続方法の選択

相続人と相続財産がはっきりした段階で、相続の方法を選択します。相続方法には、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3種類があります。

このうち「限定承認」と「相続放棄」の方法が選択できるのは、原則として相続開始の日(亡くなった日または自分が相続人であることを知った日)から3ヶ月以内に決めなればなりません。この3ヶ月がすぎると、自動的に「単純承認」になります。
海外に居住している場合には、相続人の確認や、相続財産の把握に時間がかかるので、この期限に注意しなくてはなりません。

④ 遺産分割協議書の作成

もし、遺言書が残されていなければ、遺産は相続人で分割して相続します。どのように分割するのかを話し合うことを「遺産分割協議」といいます。この協議には、相続人全員の参加が必要です。相続人が海外に居住している場合には、協議に時間がかかることも想定されますので、計画的に協議を行うことが重要となります。
遺産分割協議書には相続人全員の実印の押印と印鑑証明書の提出が必要となります。海外には印鑑証明書にあたるものがないため、代わりにサイン証明書を提出します。
また、日本国内の不動産を相続するには住民票の提出が求められます。相続人が海外にいるときは、住民票の代わりとして在留証明書を提出します。
これらの証明書の取得については、外務書ホ-ムペ-ジでご確認ください。

⑤ 相続税の納付方法

相続人が海外から相続税の納付を行う場合には、日本国内の方を「納税管理人」として届け出をし、納付を委託することができます。

また、海外に居住する相続人が自ら納付する方法としては、クレジットカ-ド納付、日本国内にある預金口座を利用した納付があります。従来、国外からの送金による納付は認められていませんでしたが、2022年1月4日より国外の金融機関からの送金により納付することができるようになりました。

まとめ

海外から行う手続きには時間のかかるものもあるため、相続税の申告の手続は計画的に行うことが必要となる。

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