不動産売却時の譲渡所得税と、海外在住日本人特有の問題について

海外在住日本人が、日本国内にある不動産を売却する場合の課税について解説します。
日本以外の国に居住されている方が、相続等で取得した日本の不動産を売却する場合、次のような疑問を持たれることも多いと思います。

  • 日本の税金は課されるのか。
  • どのような手続きで税金を納めるのか。

ここでは、このような疑問に答えていきます。

事例

Aさんは、10数年前に渡米し、以後、米国に居住しています。昨年、相続により日本にあるマンションを取得しました。取得した不動産は日本国内に居住する個人に売却しました。この場合、Aさんに、日本の所得税は課されるのでしょうか。

結論

  • Aさんは、非居住者に該当する。
  • 国内にある不動産の譲渡による所得は、国内源泉所得として、所得税が課税される。
  • Aさんは、所得税の確定申告を行い、所得税を納付する。
  • 譲渡対価の支払いの際には、10.21%の税率で所得税が源泉徴収される。
  • 源泉徴収された税額は、確定申告の際に精算される。

解説

居住者 / 非居住者

所得税の課税に関して大切なポイントに、「居住者」という考え方があります。
居住者とは、その国に住所がある個人をいいます。居住者以外の個人は非居住者といいます。
海外に住んでいる方は、日本の「非居住者」に該当します。
ここでいう、「住所」とは生活の本拠がある場所を意味します。生活の本拠がどこにあるかは、住宅がある場所、職業、家族の居住地、年間を通じた滞在日数などを総合的に勘案し、判断します。日本に住民登録を残したまま、日本国外に住んでいる場合でも、住所を決定するときには、住民登録という形式的な基準ではなく、生活の本拠という実質で判断します。

国内源泉所得

居住者、非居住者のどちらに該当するかで、所得税が課税される範囲が決まります。

居住者日本国内および国外で得たすべての所得に対して課税
非居住者国内源泉所得(日本国内にその発生の源がある所得)に対して課税

日本に住所がある方は、日本の居住者として、発生場所を問わず、すべての所得に対して日本の所得税が課税されます。一方、日本国外に住所がある方は、日本の非居住者として、日本国内で発生した所得(国内源泉所得)に対してのみ課税され、国外で得た所得については、日本の所得税はかかりません。
不動産を売却した場合に、その売却不動産が日本国内に所在する場合には、売却で生じる所得は国内源泉所得となります。非居住者であっても、日本国内に所在する不動産を売却した場合には、国内源泉所得として、日本の所得税が課されることとなります。

所得税の確定申告

不動産を売却した場合には譲渡所得が生じます。「所得」とは、日常の用語でいうと「利益」「儲け」に相当します。具体的に、譲渡所得は、売却代金から取得費(不動産の取得価額および取得に際し要した費用の合計額)ならびに譲渡費用(不動産を売却する際に要した費用)を合わせた金額を控除した金額となります。不動産を売却し、利益が生じた場合、つまり譲渡所得が生じた場合には所得税の確定申告を行う義務があります。不動産を売却し、損失が生じた場合、つまり、譲渡所得がマイナスの場合には、確定申告義務はありません。

所得税の源泉徴収

非居住者が、日本国内の不動産を売却した場合には、売却代金から所得税が源泉徴収されます。
源泉徴収とは、不動産の買主が、不動産の売却代金が支払うときに、売却代金の一部を所得税として控除し、納付する仕組みです。不動産の売主にとっては、所得税の前払いに該当します。
例えば、非居住者が不動産を2億円で売却したとします。このとき、不動産の購入者は、売却代金の支払いの際、支払金額2億円の10.21%に相当する2,042万円を源泉徴収し、税務署に納めます。したがって、売主が手にする売却代金は残りの89.79%相当額の1億7,958万円となります。

確定申告の手続き

この源泉徴収された税額は、売主が所得税の確定申告を行うことによって精算することとなります。上記の例の場合、確定申告の結果、売主が負担する所得税額が1,000万円となった場合には、差額の1,042万円が還付されます。
先ほど、譲渡所得がマイナスの場合には、確定申告義務はないと述べました。が、この場合は負担すべき税額が0なので、確定申告をすることにより、源泉徴収された税額の全額が還付されます。還付を受けるために、所得税の確定申告を行うこととなります。
所得税の確定申告の期限は、翌年2月16日から3月15日までとなります。非居住者が確定申告を行うときには、確定申告書を提出するときまでに、あらかじめ納税管理人を定めなければなりません。納税管理人とは、海外に在住する納税者の委託を受け、納税者のために申告書の提出および税金の納付などの手続きを行う者をいいます。税務署が発送する書類も納税管理人あてに送付されます。

源泉徴収の要件

非居住者が不動産を売却したとき、必ず源泉徴収が行われるわけではなく、以下の要件をすべて満たす場合に限れられます。

  1. 売却不動産が日本国内にある。
  2. 売主が非居住者である。
  3. 買主が個人である。(法人に売却した場合には対象外となります。)
  4. 買主が、買主本人または買主の親族の居住用の不動産として購入したものではない。
    (購入不動産が、買主または買主の親族の居住用の場合は対象外となります。)
  5. 売却代金が1億円超である。
    (売却代金が1億円以下の場合は対象外となります。)

具体的な手続き

冒頭の事例における具体的な手続きをみてみます。

  • Aさんは非居住者で、日本国内にある不動産を売却した。
  • 買主は日本の居住者で、自己の居住用として不動産を使用する。
  • 売却代金は1億円を超えている。
  • Aさんは、すでに納税管理人の届出をしている。

買主(居住者)の手続き

  • 購入不動産の使用目的は自己の居住用ですが、売却代金が1億円を超えているため、源泉徴収の対象となります。
  • 売買代金(手付金、残代金、固定資産税等の精算金)の支払いの都度、売買代金の10.21%相当額を源泉徴収します。売主に支払う金額は10.21%相当額を控除した89.79%相当額となります。
  • 源泉所得税の納付書(正確には「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書」)に必要事項を記載して、売買代金の支払い日の月の翌月10日までに税務署に源泉徴収税額を納付します。源泉所得税の「納付書」「支払調書」は売主が確定申告をする際に必要な書類となるので、これらの書類のコピーを売主に交付する必要があります。

売主(非居住者)の手続き

  • 売買代金から源泉徴収税額10.21%が控除された89.79%相当額が入金されます。確定申告の際に源泉徴収された金額を証する書類の提出が求められますので、買主から受け取った源泉所得税の「納付書」または「支払調書」のコピーを保管しておきます。
  • 売却年の翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告書を税務署に提出します。確定申告で税額を計算した結果、源泉徴収税額>税額となる場合にはその差額につき還付が受けられ、源泉徴収税額<税額となる場合にはその差額を納付することになります。

まとめ

非居住者が不動産を売却するときの注意点は、以下のとおりです。

  • 源泉徴収されるかどうか、確認する。
  • 源泉徴収された場合は、確定申告によって還付を受ける。
  • 確定申告を行うときまでに、納税管理人を定める。

補足:所得税以外の税金について

所得税以外に、不動産を売却するときにかかる税金は、次の2つです。

印紙税

不動産の売却時に作成する契約書には、金額に応じて印紙を貼ります。この印紙を通じて納める税金です。

登録免許税

不動産の登記をする際に課される税金です。

住民税については?

住民税が課されるのは、不動産売却を行った年の1月1日において日本に住所があった方です。
すでに住所がなかった場合には、住民税は課されません。

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